神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1533号 判決 1999年9月20日
原告 上島美津子
<他6名>
原告ら訴訟代理人弁護士 英子
同 荒井俊且
被告 増田正雄
<他1名>
被告ら訴訟代理人弁護士 堅正憲一郎
主文
一 被告増田正雄は、
原告上島美津子に対し金二一六九万六四七七円、
原告後藤金夫に対し金一五九九万四八八六円、
原告後藤リツ子に対し金一五九九万四八八六円、
原告竹川聰に対し金一八七四万〇四三二円、
原告竹川敏子に対し金一八七四万〇四三二円、
原告齋藤定明に対し金一八八三万五五三三円、
原告齋藤嬉子に対し金一八八三万五五三三円、
及び右各金員に対する平成七年一月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告増田正雄に対するその余の請求及び被告株式会社エスピックに対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告らと被告増田正雄との間では、原告らに生じた費用の四分の一を被告増田正雄の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告株式会社エスピックとの間では、全部原告らの負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求の趣旨
一 被告らは、連帯して、
原告上島美津子に対し金五八二四万五一一四円、
原告後藤金夫に対し金三六五〇万八〇六七円、
原告後藤リツ子に対し金三六五〇万八〇六七円、
原告竹川聰に対し金四二九一万一〇〇九円、
原告竹川敏子に対し金四二九一万一〇〇九円、
原告齋藤定明に対し金四三一二万九五七八円、
原告齋藤嬉子に対し金四三一二万九五七八円、
及び右各金員に対する平成七年一月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 仮執行の宣言
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、阪神・淡路大震災の際に神戸市東灘区のマンションの一階部分が潰れて倒壊し、そこに賃借人として居住していた原告ないし原告らの被相続人らが負傷ないし死亡したことにつき、原告らが、右倒壊は右建物に瑕疵があったからであると主張して、右建物の賃貸人であり所有者でもある被告増田正雄に対し、安全な建物を賃貸すべき義務の違反及び民法七一七条の土地工作物責任に基づき、右建物の賃貸借契約を仲介した被告株式会社エスピックに対し、建物の構造について虚偽の事実を伝えたことによる債務不履行及び不法行為に基づき、損害賠償として総額三億〇三三四万二四二二円の連帯支払を求める事案である。
二 争いのない事実等(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告
原告らは、いずれも、平成七年一月一七日の阪神・淡路大震災(以下「本件地震」という。)当時、神戸市東灘区《番地省略》所在の三階建賃貸集合住宅「東神マンション」(以下「本件建物」という。)の一階の各室を賃借してここに居住していた後記四名の親である。なお、原告上島美津子(以下「原告上島」という。)は自らも本件建物の一室に居住していた。
原告上島は、亡福田和彦(享年二四歳)の母親、原告後藤金夫及び同後藤リツ子は、亡福田加代子(享年二四歳)の両親、原告竹川聰及び同竹川敏子は、亡竹川郁子(享年三〇歳)の両親、原告齋藤定明及び同齋藤嬉子は、亡齋藤摩里子(享年二二歳)の両親である。
(二) 被告
(1) 被告増田正雄
被告増田正雄(以下「被告増田」という。)は、本件地震当時本件建物の所有者であり、賃貸人であった。なお、同人は増田建設株式会社を経営している。
(2) 被告株式会社エスピック
被告株式会社エスピック(以下「被告会社」という。)は、宅地建物取引業者であり、本件建物の各室の賃貸借契約において仲介業務を行った者である(ただし、本件地震当時は組織変更前の有限会社エスピックであった。)。
2 被告増田が本件建物を取得した経緯
本件建物は昭和三九年五月二二日に建築され、同月二八日に近畿建物株式会社が所有権保存登記を経由した。そして昭和四四年二月二〇日、寳角万蔵が買い受け(同日所有権移転登記経由)、昭和五五年六月一一日、寳角しづ江が相続した(同年一一月一三日所有権移転登記経由)。その後、有限会社アオバ商事が買い受け、同年一一月一七日、被告増田が亡妻増田文子の名義で買い受けて所有権を取得し(同年一二月一八日同女名義で中間省略の所有権移転登記経由)、平成五年五月七日、同女が同年一月一日死亡したことにより、相続を原因として所有権移転登記を経由した。
なお、本件建物は、登記簿上、構造につき「軽量鉄骨コンクリートブロック造一部鉄筋コンクリート造陸屋根三階建」として登記されている。
3 賃貸借契約
(一) 原告上島及び原告らの前記被相続人ら(以下、総称するときは「本件賃借人ら」という。)は、いずれも本件地震までに、被告増田から本件建物の一階部分各一室を賃借し、居住していた(ただし、原告上島については、その兄である上島松男の名義で賃貸借契約が締結された。)。
(二) 右各賃貸借契約締結に際し、本件賃借人らは、被告会社の社員らから本件建物の構造につき「鉄筋コンクリート造三階建」であるとの説明を受け、契約書にもその旨の記載があった。
4 本件地震による本件建物の倒壊と本件賃借人らの死傷
本件建物は、本件地震により倒壊して一階部分が完全に押しつぶされ、原告らの前記被相続人四名が死亡した。
また、原告上島は、長時間生き埋めとなり傷害を負った。
三 争点
1 本件建物に瑕疵があったか(本件建物倒壊は本件地震による不可抗力によるものか)。
2 被告らの損害賠償責任の有無
3 被告らの損害賠償責任が肯定される場合に、原告らに対し賠償すべき損害の額
四 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(原告らの主張)
(一) 本件建物の瑕疵について
本件建物は、壁厚の不足、鉄筋コンクリート造の布基礎及び各階壁頂の臥梁の不存在、壁に鉄筋が配筋されていない部分が多いこと、鉄筋が柱や梁に十分緊結されていないこと等の点で、補強コンクリートブロック造として扱うことはできず、軽量鉄骨造の建物であると解さざるを得ないところ、その主要構造部は柱、梁のみであること、その接合部分はピン柱脚及びピン接合であること、斜材も全くないこと等の点からすると、本件建物は、構造計算上の水平耐力が零の、著しい建築基準法令違反の建物であることが明らかである。また、主要構造部である軽量鉄骨柱及び梁のみでは到底垂直荷重を支えきれず、建築基準法令の定める構造強度を著しく欠いていることも明らかである。
結局、本件建物は、昭和三九年当時の建築基準法令の定める技術的基準に適合せず、特に地震等の水平力に対する抵抗要素が皆無の、常軌を逸脱した危険な建物であり、その設置に瑕疵があったことは明らかである。
(二) 本件地震について
(1) 本件地震では、老朽化した木造建物の倒壊による被害が特に甚大であったところ、本件建物周辺の建物はほとんど倒壊していなかった。
(2) 本件地震の地震動の最大加速度は地域によって大きな差があり、最大加速度が約八〇〇ガルの測定地点もあれば、約二〇〇ガルの測定地点もあった。
(3) 本件建物は、基本的な構造部分に重大な欠陥、すなわち、著しい建築基準法令違反のある建物であり、構造計算により安全性を確認したとは到底認められないものである。
(4) 以上のことからすれば、本件建物の倒壊が不可抗力によって発生したものと解することはできない。
(被告らの主張)
(一) 本件建物が建築基準法令に違反しないことについて
本件建物は補強コンクリートブロック造であるところ、壁厚と壁量については、法令で壁厚は一五センチメートル以上、壁量は床面積一平方メートルについて一五センチメートル以上(建築基準法施行令六二条の四第二、第三項)と規定されているが、二階建や三階建の建物については法令に規定がない。
社団法人日本建築学会作成の補強コンクリートブロック造設計規準(以下「設計規準」という。)には二階・三階についての壁厚と壁量についての規定があり、本件建物については設計規準を満たさない部分はある。しかし、設計規準を満たさない場合でも、構造計算によって安全を確認すればよく、本件建物は、軽量形鋼の補強により昭和三九年当時の耐震基準水平震度〇・二(建築基準法施行令八八条)を満たしているから、建築基準法に適合した建物である。
(二) 本件地震について
(1) 本件建物は、震度階五では壁面について破損の生じることはあっても一階部分が崩壊することはなく、震度階六でも一階部分が瞬間的な崩壊を起こして人命に対する被害を生ぜしめることはなかったはずである。
本件地震により本件建物の一階部分が崩壊したのは、本件建物に水平震度〇・四(震度階七)を超える大きな地震動と予想を超える上下動が加わったことによるものである。
(2) なお、本件地震は震度階七といわれているものの、現実に測定されたガル値は八〇〇ガルをはるかに超えている上、上下動ガルが極めて激しかったところに本件建物周辺の不整形地盤という特性が、さらに地震動を大きくし、本件地震の地震力はこれまでの常識を覆す激しいものであった。
結局、本件建物の一階部分の崩壊は、八〇〇ガルを超える地震力により生じたとしか考えられず、本件建物一階の崩壊に伴う被害は本件地震という不可抗力によるものと考えられる。
2 争点2について
(原告らの主張)
(一) 被告増田の責任
(1) 債務不履行責任
被告増田は、本件建物の貸主として安全な居住用建物を賃貸すべき契約上の義務を負っていたにもかかわらず、その義務に反して瑕疵ある建物を賃貸し、これによって本件賃借人らに後記損害を与えた。
なお、被告増田は、本件建物の構造をよく知っていたばかりか、本件建物の安全性につき地元業者間では悪評判があることを知っており、右債務不履行につき少なくとも過失がある。
したがって、被告増田は、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(2) 民法七一七条の土地工作物責任
被告増田は、設置に瑕疵のある本件建物の所有者として、民法七一七条の工作物責任に基づき原告らに対する損害賠償責任を免れない。
(二) 被告会社の責任
(1) 債務不履行責任
ア 被告会社は、宅地建物取引業者として、賃借人との間の仲介契約上、賃借人の生命を危うくするような建物の賃貸借契約を仲介してはならない信義則上の義務を負っている。ところが、被告会社は右義務に反して瑕疵ある建物の賃貸借契約を仲介し、本件賃借人らに後記損害を与えた。
イ なお、被告会社は、神戸市内の専門業者として、業者間で本件建物の安全性につき悪評判があることを知りながら殊更に「鉄筋コンクリート造三階建」と偽って宣伝し契約を仲介したものであり、右債務不履行につき少なくとも過失がある。
また、被告会社は、登記簿謄本等を求め実情を調査し、賃貸建物の構造等を確認する義務があるので、右義務を尽くしていれば、本件建物の構造を知り、安全性に疑義を抱くことが可能であったことに鑑みると、右債務不履行について被告会社にその責めに帰すべき事由がないということはできない。
ウ そして、被告会社が本件建物を本件賃借人らに仲介しなければ、本件賃借人らが本件建物に居住して命を失うなど後記損害を被ることはなかったのであるから、被告会社は原告らに対し右損害を賠償すべき責任を負う。
(2) 不法行為責任
被告会社は、賃借人の生命を危うくするような建物の賃貸借契約を仲介してはならない義務があるのに、故意又は少なくとも過失により、右義務に反して本件建物を本件賃借人らに仲介し、もって後記損害を与えたのであるから、民法七〇九条の不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
(一) 被告増田の責任
(1) 債務不履行責任について
被告増田は、亡妻文子名義で本件建物を敷地とともに買い受けたものであるが、本件建物を賃借人のいる収益物件として購入したものであり、建物の構造については図面の交付も受けておらず、どのような構造であるのかは登記簿謄本の構造を信じるしかなかった。
そして被告増田は本件建物の改装をしたことがあるものの、単なる内装の改装をしただけであって、本件建物の構造について知る機会は全くなかった。
また、震度四を超えるような震災を予想して本件建物を補強する義務もなかった。
結局、本件建物が本件地震で倒壊したのは予想することもできなかった震度階七を超える地震動によるものであり、被告増田に債務不履行責任はない。
(2) 民法七一七条の土地工作物責任について
本件建物は建築された当時通常発生することが予想された地震動に耐え得る安全性を有していた。
なお、建築基準法は本件建物が建築された後の昭和五六年に改正され、耐震基準は水平震度〇・三とすることが決められたが、既存の建物については既存不適格建物として適法な建物として存続することが認められている。
したがって、本件建物の設置保存について瑕疵があったとはいえない。
(二) 被告会社の責任
(1) 仲介業者は、賃貸建物の法的権利関係については専門家として高度な注意義務を負うが、建物の構造や安全性については建築士のような専門的知識を持つものではなく、建物の構造上の安全性については特段の事情がない限り調査をする義務を負わない。
被告会社は被告増田から賃貸借契約の入居者の斡旋を依頼されたが、本件建物の構造の安全性について特段不信を抱くような事情は全くなかった。なお、被告会社は、本件建物の安全性についての悪評判を聞いたこともない。
(2) 多くの人は神戸地区において建物の倒壊するような大きな震災が起こる可能性を全く予想していなかったのであり、本件賃借人らも、「鉄筋コンクリート造三階建」なら地震に耐え得る安全性を有していると判断したからこそ本件建物に入居した、というわけではない。逆にいえば、「軽量鉄骨コンクリートブロック造三階建」であると分かっていれば入居しなかった、というわけではない。また、本件地震をみると、「鉄筋コンクリート造」なら安全で「軽量鉄骨コンクリートブロック造」なら安全でないとはいえない。
したがって、被告会社が本件建物の構造の表示を間違えたことと原告らの損害との間に因果関係はない。
(3) よって、被告会社には仲介契約に伴う注意義務違反を理由とする民法四一四条の債務不履行責任もないし、民法七〇九条の不法行為責任もない。
3 争点3について
(原告らの主張)
(一) 原告上島美津子 合計五八二四万五一一四円
(1) 本人固有の損害
ア 傷害による慰謝料 五〇〇万円
原告上島は、本件建物倒壊により、間仕切り壁の下敷きとなり、約四〇時間もの間生き埋めになった。そのため、心的外傷後ストレス傷害が発症し、現在も通院治療中である。よって、本件建物倒壊による傷害によって生じた精神的損害を慰謝するに足る金額は、五〇〇万円を下らない。
イ 福田和彦の死亡による慰謝料 五〇〇万円
ウ 弁護士費用 五三〇万円
(2) 福田和彦の損害
ア 死亡による逸失利益 六二八九万〇二二八円
福田和彦は、本件地震当時、株式会社朝日セキュリティシステムズに勤務しており、平成五年度分給与所得は三九七万三五一六円であった。したがって、死亡による逸失利益は、六二八九万〇二二八円である(労働可能年限六七歳、生活費控除率三〇パーセントとし、新ホフマン方式により中間利息を控除して計算。以下の死亡による逸失利益の計算につき同じ。)。
イ 死亡慰謝料 二二〇〇万円
ウ 葬儀費用 一〇〇万円
右アないしウの福田和彦の合計八五八九万〇二二八円の損害賠償請求権の二分の一(四二九四万五一一四円)を、母親である原告上島が相続した。
(3) 合計
よって、原告上島に対し被告らが連帯して賠償すべき損害額は、五八二四万五一一四円である。
(二) 原告後藤金夫及び同後藤リツ子 合計各三六五〇万八〇六七円
(1) 福田加代子の損害
ア 死亡による逸失利益 四三三七万六一三四円
福田加代子は、本件地震当時、株式会社朝日セキュリティシステムズに勤務しており、平成五年度分給与所得は二七四万〇五八一円であった。したがって、死亡による逸失利益は、四三三七万六一三四円である。
イ 死亡慰謝料 二二〇〇万円
ウ 葬儀費用 一〇〇万円
右アないしウの福田加代子の合計六六三七万六一三四円の損害賠償請求権を、両親である原告後藤金夫及び同後藤リツ子が各二分の一(三三一八万八〇六七円)相続した。
(2) 弁護士費用 各三三二万円
(3) 合計
よって、原告後藤金夫及び同後藤リツ子に対し被告らが連帯して賠償すべき損害額は、各三六五〇万八〇六七円である。
(三) 原告竹川聰及び同竹川敏子 合計各四二九一万一〇〇九円
(1) 竹川郁子の損害
ア 死亡による逸失利益 五五〇二万二〇一八円
竹川郁子は、本件地震当時、株式会社ラブリーに勤務しており、平成六年度分給与所得は三八一万〇九七五円であった。したがって、死亡による逸失利益は、五五〇二万二〇一八円である。
イ 死亡慰謝料 二二〇〇万円
ウ 葬儀費用 一〇〇万円
右アないしウの竹川郁子の合計七八〇二万二〇一八円の損害賠償請求権を、両親である原告竹川聰及び同竹川敏子が各二分の一(三九〇一万一〇〇九円)相続した。
(2) 弁護士費用 各三九〇万円
(3) 合計
よって、原告竹川聰及び同竹川敏子に対し被告らが連帯して賠償すべき損害額は、各四二九一万一〇〇九円である。
(四) 原告齋藤定明及び同齋藤嬉子 合計各四三一二万九五七八円
(1) 齋藤摩里子の損害
ア 死亡による逸失利益 各五五四一万九一五七円
齋藤摩里子は、本件地震当時、有限会社るんぜの委託契約社員であり、同社の商業デザイナーとして勤務しており、平成六年度の所得は三四〇万八〇〇〇円であった。したがって、死亡による逸失利益は、五五四一万九一五七円である。
イ 死亡慰謝料 二二〇〇万円
ウ 葬儀費用 一〇〇万円
右アないしウの齋藤摩里子の合計七八四一万九一五七円の損害賠償請求権を、両親である原告齋藤定明及び同齋藤嬉子が各二分の一(三九二〇万九五七八円)相続した。
(2) 弁護士費用 各三九二万円
(3) 合計
よって、原告齋藤定明及び同齋藤嬉子に対し被告らが連帯して賠償すべき損害額は、各四三一二万九五七八円である。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 本件建物の構造等
(一)(1) 争いのない事実、《証拠省略》によれば以下の事実が認められる。
本件建物は、登記簿上、構造につき「軽量鉄骨コンクリートブロック造一部鉄筋コンクリート造陸屋根三階建」と登記されているところ、柱や梁が軽量鉄骨造であり、外壁や界壁がコンクリートブロック造であり、床や陸屋根が鉄筋コンクリート造である。
また、本件建物の登記簿上の床面積は各階二五五・三七平方メートルであるが、実際の建物の各階は、震災後の原告上島及び訴外上島松男の計測によれば、南北約一三・五メートル、東西約二四・四メートルで、北側部分が東へ五メートル幅で一・二五メートル出っ張って、二五・六五メートルになっているほぼ長方形の形状をしている。
なお、建物一階西側外壁は、一階出入口、階段出入口、自転車置場・駐車場があるため、開口部が多い。
(2) 争いのない事実、《証拠省略》によれば以下の事実が認められる。
① 柱の数・位置
通し柱は、別紙のとおり、建物北側外壁及び南側外壁にそれぞれ四本ずつ合計八本あり(P1ないしP8)、一階部分には、中間補助柱が、建物北側外壁及び南側外壁にそれぞれ二本ずつ、西側外壁に三本、東側外壁に二本、建物内部に二本の合計一一本あり(P'1ないしP'11)、そのほか、二本の中間柱木柱があった(ただし、P'3の柱の位置は実際には別紙記載の位置より北寄りにあった。)。
② 各階の高さ
一階、二階及び三階の各高さは、陸屋根(〇・二メートル)及び床版(〇・一五メートル)の各厚さを除き、約二・八メートルである。
③ 柱・梁の部材
本件建物の柱は、軽量鉄骨リップみぞ形鋼(九〇×四五×二〇ミリメートル、板厚二・三ミリメートルの規格品)二本を背中合わせに点溶接したものであり、梁は、同じサイズの軽量鉄骨リップみぞ形鋼一本である。
④ 柱・梁の接合
梁は、柱と柱の間に渡し、柱に取り付けた等辺山形鋼と一本のボルトで接合されていた。通し柱のうち少なくとも一本の柱脚は、厚さ六ミリメートルのべースプレートを介して無筋コンクリートの基礎と一本のアンカーボルトでしか接合されておらず、すべての柱について、柱脚部分に補助鋼(リブ)が溶接されていなかった。また、斜材は、全く入っていなかった。
(二) 右認定事実に《証拠省略》を総合すると、本件建物は、軽量鉄骨造として考えると、本件のような軽量形鋼の柱と梁の骨組だけでは水平方向の荷重に抵抗できず、構造計算上ほとんど構造耐力のない建物であったと認められる。
そして、本件建物の所有権保存登記手続をした近畿建物株式会社はその名称から建物の売買、賃貸等の営業を行う会社であると推認できること、本件建物はその間取りから共同住宅として建築されたことが明らかであること、本件建物は非木造三階建で、延べ面積が二〇〇平方メートルを超えるから構造計算によってその構造が安全であることを確認しなければならないこと(建築基準法二〇条)等の点を総合すると、建築士が本件建物を軽量鉄骨造として設計したとは考え難い。
一方、本件建物は三階建の共同住宅であるから耐火建築物としなければならない(建築基準法二条二号、二七条一項一号)ところ、《証拠省略》によれば、本件建物が建築された昭和三九年当時は、鉄筋コンクリート造はまだ建設コストが高かったこと、軽量鉄骨造はそのままでは耐火建築物とはならないが、補強コンクリートブロック造であれば耐火建築物となること、また、単なる間仕切壁であれば一〇センチメートル厚でよいところ、本件建物の壁に使用されていたコンクリートブロックは一五センチメートル厚のものであったことが認められる。
以上の点を総合すると、本件建物は補強コンクリートブロック造として設計されたものと推認することができる。
(三) しかしながら、同じく《証拠省略》によれば、補強コンクリートブロック造の設計規準によれば、一階と二階の壁厚は一八センチメートルが要求され(設計規準六条二)、本件建物の壁厚一五センチメートルでは足りず、また、各階各方向の建物床面積一平方メートル当たりの壁の長さ(壁量)にも下限値が定められているところ(設計規準五条五)、下限値を守ればそれだけ窓や出入口等の開口部に制約を受けるためか、本件建物の壁量は右下限値を下回るものであったこと、右壁厚及び壁量を前提に本件建物一階の短期せん断耐力を計算すると四六トンとなり、右数値は当時の法令が要求していた水平震度(現行法令の層せん断力係数)〇・二で計算した地震荷重一六四トンを大きく下回ること、当時、鉄骨造の建物にコンクリートブロック壁を採用する工法も存在したこと、補強コンクリートブロック造は、当時は日本で使用された実績が少なく、また、壁式鉄筋コンクリート造に比して、鉄筋量も少なく、組積構造で壁体も弱いため、その設計や施工については特に入念の注意を必要とされ、一応三階建までできることにはなっていたが、実際の設計では壁の配置が必ずしもつりあいのよくないことが多く、施工上も不完全な施工になることが避け難かったので、特に厳重な監督の行き届く場合のほかは、三階建の建物は一般には勧められないと考えられていたことが認められる。
そこで、本件建物の設計者は、補強コンクリートブロック造における一階と二階における壁厚や壁量の不足について、軽量形鋼で補強することによって安全が確保されると判断したのではないかと推認することができる。
2 補強コンクリートブロック造を軽量形鋼で補強するとの考え方による設計の問題点
《証拠省略》によれば、補強コンクリートブロック造を軽量形鋼で補強するとの考え方による本件の設計には、以下のような問題点のあることが認められる。
(一) 当時、軽量鉄骨と補強コンクリートブロック造の混用は無理であると考えられていた。
(二) 当時存在した鉄骨造の建物に補強コンクリートブロック壁を採用する手法は、それぞれ独立した骨組である鉄骨架構と鉄筋コンクリート架構を合成してそれぞれの耐力を累計することのできる鉄骨鉄筋コンクリート造とは基本の理論が異なり、あくまで鉄骨造が主要構造部であり、補強コンクリートブロック壁は間仕切り壁であることを前提としていた。
(三) 一般に、軽量形鋼とコンクリートブロックの合成は難しく、また、補強コンクリートブロック造で壁厚や壁量の不十分な壁式構造と、筋かい等を有しない軽量鉄骨架構を組み合わせた場合の効果は明らかではなかった。
(四) 本件においては、補強コンクリートブロック造と軽量鉄骨造の性質、特徴その他変形や破壊性状を詳細に解明した上で、計算又は実験によって安全を確認するということをしたのかどうか疑問であり、かえって、軽量形鋼を補強材として使用することによってその一体性を損なわせ、補強コンクリートブロックの耐力を損なわせたのではないかとの疑問がある。
(五) 本件設計は、軽量鉄骨を部材として評価すればその強度を加算して補強コンクリートブロック造の耐力不足を補強できるとの考え方に基づくものと推測されるが、本件軽量鉄骨は構造体としては構造耐力がほとんどないこと、構造耐力は建物の主要構造部のみにより計算すべきであること、仮に本件軽量鉄骨の架構が構造耐力を有するとしてこれに補強コンクリートブロック造を組み合わせたとしても単純に双方の耐力を累計できるわけではないこと等からすると、構造計算を右のような考え方に基づいて行うことは疑問である。
(六) 右(五)のような考え方を前提としても、多少の施工の不備を考え、荷重を約二〇パーセント多く見積もり、壁の長さを約二〇パーセント短く計算すると、本件建物の一階部分の短期せん断耐力は一五三トンとなり、前述した地震荷重一六四トンを下回る。
3 施工上の問題点
《証拠省略》によれば、補強コンクリートブロック造は、同じ設計の壁でも、鉄筋とコンクリートの扱い方によってその壁の強さは全く違ったものになり、その施工が悪いと積木細工のような不安定な壁となるおそれが多分にあり、特に、コンクリートブロック壁が基礎、柱、臥梁等に緊結されていることが非常に重要であったが、当時、現場の実際の作業において鉄筋の入れ方や空洞のコンクリートの填充などが雑に扱われたり、我流で行われるなど、施工上の信頼性に欠けることが多かったことが認められるところ、本件建物の実際の施工においても配筋及び緊結の点は以下のとおり問題があった。
(一) 配筋について、検甲第二号証の各写真によれば、
① 二階部分の西側外壁には、一番北のブロックと北から二個目のブロックの間、二個目と三個目の間、五個目と六個目の間、七個目と八個目の間に縦筋がある、
② 二階部分の西側外壁には、横筋が数本入っている、
③ 二階部分の北側外壁には、一番西のブロックから少なくとも七個目のブロックまでの間に、縦筋は一本しか見当たらない、
④ 二階部分の北側外壁には横筋がほとんど見当たらない、
⑤ 一階部分の北側外壁には横筋が少なくとも一本入っている、
⑥ 一階の間仕切壁には、ブロック二個に一本の割合で縦筋が入っている部分が少なくとも一か所ある、
⑦ 二階の間仕切壁には、横方向の数個のブロックの間に縦筋が一本しか見当たらず、縦方向の数個のブロックの間に横筋の見当たらない箇所がある
ことが認められる。
このことに、《証拠省略》を総合すると、本件建物の壁には、ブロック二個に一本の割合で縦筋が入っている部分もあるが、配筋されていない部分が多かったものと推認することができる。
(二) 緊結について、検甲第一、第二号証の各写真によれば、
① 鉄筋ないし金具が溶接ないしフックかけされた跡が広範囲にわたって見当たらない柱や梁の鉄骨が数本ある(逆に、鉄筋ないし金具が溶接ないしフックかけされている柱や梁の鉄骨が存在することを示す写真はない。)、
② 一階出入口上部の壁はカッターで切ったようにきれいに落ちている、
③ 一階南側の壁もきれいに落ちている、
④ 間仕切り壁の下にパイプの通っている箇所もある、
⑤ 各階壁頂に鉄筋コンクリート造の臥梁はない
ことが認められる。
このことに、《証拠省略》を総合すると、本件建物の壁のブロックに配筋された鉄筋のうち柱や梁の鉄骨に溶接等されていないものがかなりあったものと推認することができ、コンクリートブロック壁と柱や梁(臥梁はない。)が十分緊結されていなかったものということができる。《証拠判断省略》
4 小括
以上のとおりであり、補強コンクリートブロック造の設計及び施工は細心の注意を払って行わなければならないところ、本件建物は設計上も壁厚や壁量が不十分であり、それを補うために軽量鉄骨で補強するとの考え方で設計されたとしてもその妥当性に疑問があり、さらに、実際の施工においても、コンクリートブロック壁に配筋された鉄筋の量が十分でない上、その鉄筋が柱や梁の鉄骨に溶接等されていないため壁と柱とが十分緊結されていない等の補強コンクリートブロック造構造の肝要な点に軽微とはいえない不備があり、結局、本件建物は、建築当時を基準に考えても、建物が通常有すべき安全性を有していなかったものと推認することができる(なお、《証拠省略》によれば、神戸市では、本件建物が建築されてから本件地震発生までの間、震度四以上の地震はなかったことが認められる。)。
したがって、本件建物には設置の瑕疵があったというべきである。これに反する被告らの主張は、採用することができない。
また、前記認定の建物の構造等に照らすと、本件建物は、本件地震によりコンクリートブロックが破壊・飛散し、壁全体が倒壊し、直ちに柱が折れ曲がって、一階部分が圧潰することになったものと推認することができる。
なお、本件建物は既に撤去されており、本件建物の構造及び瑕疵の有無についての事実認定には一定の制約はあるが、前示のような現場での実測結果等を記載した図面や本件建物の写真、各証人の証言等の本件証拠関係を総合すれば、前記のとおりの事実を認定することができるものである。
5 本件地震について
《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
(一) 地震の規模等
本件地震は、平成七年一月一七日午前五時四六分、震央を北緯三四度三六・四分、東経一三五度二・六分、深さ約一四・三キロメートルとして発生し、マグニチュードは七・二であり、わが国の観測史上一、二を争う最大級の地震であった。本件地震の特徴としては、揺れる強さが極めて大きかったこととともに、水平動に対する上下動の比率が高かったことが挙げられ、多くの観測値において、上下動の最大加速度が水平動の最大加速度の二分の一を超えた値を示している。本件建物から北東約二キロメートル強の位置にある神戸市立本山第一小学校に設置された地震計では、水平動の最大加速度七七五ガル、上下動の最大加速度三七九ガルと観測された。
(二) 建物被害の地域的分布
地震による建物被害が特に大きかった地域は、淡路島北端から、明石海峡を経て神戸市内を海岸線にほぼ平行して東北東に延びる幅一ないし二キロメートル、長さ三〇キロメートル程度の帯状の地域に集中しており、これは気象庁が震度七の地域として発表した地域とよく一致している。震度七の地域は木造建物の全壊率が三〇パーセント以上であり、本件建物も震度七の地域に存在した。
本件建物周辺の住吉宮町六丁目及び同町三丁目においても、その大部分が倒壊したというわけではないものの、本件地震により被害を受け解体撤去された建物が多数ある。
なお、東灘区の南北断面の木造家屋倒壊率のデータによると、国道二号線の少し南の位置においては、右倒壊率は八〇パーセント以上であるとされているが、東灘区の木造家屋の被害分布の図によると、右データは、本件建物の存在した同区西部ではなく、同区東部のものと推認される。
(三) 建物被害の建築時期との関係
層せん断力係数(水平震度)を〇・三以上とする新耐震設計規準が定められた昭和五六年より前に建築された建物は、それ以降に建築された建物に比べ、被災率が大きいとの報告がある。
なお、本件地震は、層せん断力係数(水平震度)が〇・四以上であったと推定される。
6 原因競合
以上の認定事実によると、本件地震は現行の設計震度をも上回る揺れの地震であったのであるから、本件建物が仮に建築当時の設計震度による最低限の耐震性を有していたとしても、本件建物は本件地震により倒壊していたと推認することができるし、逆に、本件地震が建築当時想定されていた水平震度程度の揺れの地震であったとしても、本件建物は倒壊していたと推認することができる。
しかし、本件建物は、結局は本件地震により倒壊する運命にあったとしても、仮に建築当時の基準により通常有すべき安全性を備えていたとすれば、その倒壊の状況は、壁の倒れる順序・方向、建物倒壊までの時間等の点で本件の実際の倒壊状況と同様であったとまで推認することはできず、実際の施工の不備の点を考慮すると、むしろ大いに異なるものとなっていたと考えるのが自然であって、本件賃借人らの死傷の原因となった、一階部分が完全に押しつぶされる形での倒壊には至らなかった可能性もあり、現に本件建物倒壊によっても本件地震の際に本件建物一階に居た者全員が死亡したわけではないことを併せ考えると、本件賃借人らの死傷は、本件地震という不可抗力によるものとはいえず、本件建物自体の設置の瑕疵と想定外の揺れの本件地震とが、競合してその原因となっているものと認めるのが相当である。
二 争点2について
1 被告増田の責任
原告らは債務不履行責任を主張するが、土地工作物責任の主張とは選択的な主張と解されるので、まず土地工作物責任について判断するに、前述のとおり本件建物には設置の瑕疵があるので、右瑕疵に基づいて生じた損害について、本件建物所有者である被告増田は民法七一七条によって賠償の責めに任じなければならない(事案の性質上本件建物の占有者たる賃借人らに注意義務違反がないことは明らかである。)。
ただ、本件のように建物の設置の瑕疵と想定外の自然力とが競合して損害発生の原因となっている場合には、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨からすれば、損害賠償額の算定に当たって、右自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌するのが相当である。そして、右地震の損害発生への寄与度は、前記認定判断にかかる本件建物の設置の瑕疵の内容・程度及び本件地震の規模・被害状況等からすると五割と認めるのが相当である。
したがって、被告増田は、本件建物倒壊により生じた損害の五割相当額及び右金額を前提とした場合の弁護士費用相当額の合計額について損害賠償義務を負うことになる(仮に被告増田の債務不履行責任が肯定されたとしても、これにより賠償すべき損害の額は、右の土地工作物責任により賠償すべき損害の額を超えるとは考え難いので、債務不履行責任の有無については判断しない。)。
2 被告会社の責任
原告らは、被告会社は宅地建物取引業者として賃借人との間の仲介契約上、賃借人の生命を危うくするような建物の賃貸借契約を仲介してはならない信義則上の義務を負っているのに、右義務に反して瑕疵ある建物の賃貸借契約を仲介した旨主張するが、仲介業者は建物の構造上の安全性については建築士のような専門的知識を有するものではないから、一般に、仲介業者は、仲介契約上あるいは信義則上も、建物の構造上の安全性については安全性を疑うべき特段の事情の存在しない限り調査する義務まで負担しているものではないと解するのが相当であり、本件建物が通常有すべき安全性を有しない建物であることを疑うべき特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠はない。また、本件建物が通常有すべき安全性を有しない建物であることを被告会社が知っていたことを認めるに足りる証拠もない。
さらに、被告会社が、本件建物の構造は登記簿上「軽量鉄骨コンクリートブロック造一部鉄筋コンクリート造陸屋根三階建」であるのに「鉄筋コンクリート造三階建」と表示したことは争いがないが、右表示を誤ったことと、本件賃借人らが本件建物の倒壊により死傷したこととの間に相当因果関係があるとは認められない。
したがって、被告会社は、本件建物倒壊により本件賃借人らが被った損害について債務不履行責任も不法行為責任も負わないというべきであるから、原告らの被告会社に対する請求は理由がない。
三 争点3(被告増田が賠償すべき損害の額)について
1 原告上島美津子
(一) 本人固有の損害―慰謝料 一〇〇万円
原告上島は、心的外傷後ストレス傷害が発症し、現在も通院治療中であるところ、前示本件地震の寄与度を含む本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、被告増田が賠償すべき原告上島自身の慰謝料は、福田和彦の死亡による慰謝料を含めて一〇〇万円と認めるのが相当である。
(二) 相続した福田和彦の損害
(1) 死亡による逸失利益 二六九五万二九五五円
《証拠省略》によれば、福田和彦は、本件地震当時、株式会社朝日セキュリティシステムズに勤務しており、平成五年度分給与所得は三九七万三五一六円であったことが認められる。
そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して福田和彦の死亡による逸失利益の現価を計算すると(ただし、就労可能年数を六七歳までの四三年、生活費控除率を四〇パーセントとする。)、次に掲げる計算式のとおり、五三九〇万五九一〇円となる。
(計算式)
三九七万三五一六円×(一-〇・四)×二二・六一〇五=五三九〇万五九一〇円(一円未満切捨て。以下同じ。)
よって、被告増田が賠償すべき福田和彦の逸失利益は右金額の五割である二六九五万二九五五円である。
(2) 死亡慰謝料 一〇〇〇万円
前示本件地震の寄与度を含む本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、被告増田が賠償すべき福田和彦本人の死亡慰謝料は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(3) 葬儀費用 五〇万円
弁論の全趣旨によれば、本件建物倒壊と相当因果関係のある葬儀費用は一〇〇万円と認められ、被告増田が賠償すべき金額はその五割である五〇万円となる。
(4) 右(1)ないし(3)の福田和彦の合計三七四五万二九五五円の損害賠償請求権の二分の一(一八七二万六四七七円)を、母親である原告上島が相続した。
(三) 弁護士費用 一九七万円
本件事案の性質、審理の経過、認容額にかんがみると、本件における損害として被告増田に対して賠償を求め得る弁護士費用の額は、一九七万円と認めるのが相当である。
(四) したがって、被告増田が原告上島に対し賠償すべき額は、右(一)ないし(三)の合計額である二一六九万六四七七円となる。
2 原告後藤金夫及び同後藤リツ子
(一) 相続した福田加代子の損害
(1) 死亡による逸失利益 一八五八万九七七二円
《証拠省略》によれば、福田加代子は、本件地震当時、株式会社朝日セキュリティシステムズに勤務しており、平成五年度分給与所得は二七四万〇五八一円であったことが認められる。
そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して福田加代子の死亡による逸失利益の現価を計算すると(ただし、就労可能年数を六七歳までの四三年、生活費控除率を四〇パーセントとする。)、次に掲げる計算式のとおり、三七一七万九五四四円となる。
(計算式)
二七四万〇五八一円×(一-〇・四)×二二・六一〇五=三七一七万九五四四円
よって、被告増田が賠償すべき福田加代子の逸失利益は右金額の五割である一八五八万九七七二円である。
(2) 死亡慰謝料 一〇〇〇万円
前示本件地震の寄与度を含む本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、被告増田が賠償すべき福田加代子本人の死亡慰謝料は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(3) 葬儀費用 五〇万円
弁論の全趣旨によれば、本件建物倒壊と相当困果関係のある葬儀費用は一〇〇万円と認められ、被告増田が賠償すべき金額はその五割である五〇万円となる。
(4) 右(1)ないし(3)の福田加代子の合計二九〇八万九七七二円の損害賠償請求権を、両親である原告後藤金夫及び同後藤リツ子が各二分の一(一四五四万四八八六円)相続した。
(二) 弁護士費用 各一四五万円
本件事案の性質、審理の経過、認容額にかんがみると、本件における損害として被告増田に対して賠償を求め得る弁護士費用の額は、各一四五万円と認めるのが相当である。
(三) したがって、被告増田が原告後藤金夫及び同後藤リツ子に対し賠償すべき額は、右(一)及び(二)の合計額である各一五九九万四八八六円となる。
3 原告竹川聰及び同竹川敏子
(一) 相続した竹川郁子の損害
(1) 死亡による逸失利益 二三五八万〇八六五円
《証拠省略》によれば、竹川郁子は、本件地震当時、株式会社ラブリーに勤務しており、平成六年度分給与所得は三八一万〇九七五円であったことが認められる。
そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して竹川郁子の死亡による逸失利益の現価を計算すると(ただし、就労可能年数を六七歳までの三七年、生活費控除率を四〇パーセントとする。)、次に掲げる計算式のとおり、四七一六万一七三〇円となる。
(計算式)
三八一万〇九七五円×(一-〇・四)×二〇・六二五四=四七一六万一七三〇円
よって、被告増田が賠償すべき竹川郁子の逸失利益は右金額の五割である二三五八万〇八六五円である。
(2) 死亡慰謝料 一〇〇〇万円
前示本件地震の寄与度を含む本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、被告増田が賠償すべき竹川郁子本人の死亡慰謝料は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(3) 葬儀費用 五〇万円
弁論の全趣旨によれば、本件建物倒壊と相当因果関係のある葬儀費用は一〇〇万円と認められ、被告増田が賠償すべき金額はその五割である五〇万円となる。
(4) 右(1)ないし(3)の竹川郁子の合計三四〇八万〇八六五円の損害賠償請求権を、両親である原告竹川聰及び竹川敏子が各二分の一(一七〇四万〇四三二円)相続した。
(二) 弁護士費用 各一七〇万円
本件事案の性質、審理の経過、認容額にかんがみると、本件における損害として被告増田に対して賠償を求め得る弁護士費用の額は、各一七〇万円と認めるのが相当である。
(三) したがって、被告増田が原告竹川聰及び同竹川敏子に対し賠償すべき額は、右(一)及び(二)の合計額である各一八七四万〇四三二円となる。
4 原告齋藤定明及び同齋藤嬉子
(一) 相続した齋藤摩里子の損害
(1) 死亡による逸失利益 二三七五万一〇六七円
《証拠省略》によれば、齋藤摩里子は、本件地震当時、有限会社るんぜの委託契約社員であり、同社の商業デザイナーとして勤務しており、平成六年度の所得は三四〇万八〇〇〇円であったことが認められる。
そこで、新ホフマン方式により中間利息を控除して齋藤摩里子の死亡による逸失利益の現価を計算すると(ただし、就労可能年数を六七歳までの四五年、生活費控除率を四〇パーセントとする。)、次に掲げる計算式のとおり、四七五〇万二一三五円となる。
(計算式)
二四〇万八〇〇〇円×(一-〇・四)×二三・二三〇七=四七五〇万二一三五円
よって、被告増田が賠償すべき齋藤摩里子の逸失利益は右金額の五割である二三七五万一〇六七円である。
(2) 死亡慰謝料 一〇〇〇万円
前示本件地震の寄与度を含む本件訴訟に顕れた諸事情を総合考慮すると、被告増田が賠償すべき齋藤摩里子本人の死亡慰謝料は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(3) 葬儀費用 五〇万円
弁論の全趣旨によれば、本件建物倒壊と相当因果関係のある葬儀費用は一〇〇万円と認められ、被告増田が賠償すべき金額はその五割である五〇万円となる。
(4) 右(1)ないし(3)の齋藤摩里子の合計三四二五万一〇六七円の損害賠償請求権を、両親である原告齋藤定明及び同齋藤嬉子が各二分の一(一七一二万五五三三円)相続した。
(二) 弁護士費用 各一七一万円
本件事案の性質、審理の経過、認容額にかんがみると、本件における損害として被告増田に対して賠償を求め得る弁護士費用の額は、各一七一万円と認めるのが相当である。
(三) したがって、被告増田が原告齋藤定明及び同齋藤嬉子に対し賠償すべき額は、右(一)及び(二)の合計額である各一八八三万五五三三円となる。
四 結論
以上によれば、原告らの被告増田に対する請求は、右三の1ないし4説示の限度で理由があるのでこれを認容し、被告増田に対するその余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条及び六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 大竹貴)
<以下省略>